広島県は、温暖な瀬戸内海地域と、標高1000ｍを超える山が連なる寒冷な山間部があり、多様な自然の姿をもつ。 人々は、その自然の中で古くから生活し、さまざまな活動を行ってきた。その活動の痕跡が土地に刻まれたものを、我々は遺跡と呼んでいる。 県内には、17,321箇所の遺跡が確認されている（Ｈ１７年度集計）が、この数は全国でも６番目の多さとなっている。
広島県北西部の冠山（廿日市市）の麓の冠高原周辺は、今からおよそ３万年前の後期旧石器時代以降に石器の材料としてよく用いられた安山岩の産地として知られており、その安山岩の原石を打ち欠いて石器をつくった場所（石器製作跡）が多数確認されている。
この遺跡は冠遺跡群といい、調査の結果、今から約３万年前の後期旧石器時代から約２千年前の弥生時代中期末まで各地に石器の材料を供給し続けた場所であることが明らかになった。
三次市の下本谷遺跡〔県史跡〕では、他の遺跡には見られない粗雑なつくりの石器が出土している。
今から３万年前をさらにさかのぼる古いものの可能性があり、広島県内における人類の生活のはじまりに関する手がかりが得られる可能性のある遺跡である。
気候の温暖化が進んだ縄文時代（今から約１万２千年〜２千２百年前）には、現在の海岸線にほぼ沿って、貝塚が多くつくられた。代表的なものとしては、広島市の比治山貝塚〔県史跡〕や、尾道市の大田貝塚〔県史跡〕，馬取遺跡〔県史跡〕などがあげられる。また、県北東部の帝釈峡の峡谷一帯（庄原市・神石高原町）には寄倉岩陰遺跡〔史跡〕など３０箇所を越す遺跡が確認され、帝釈峡遺跡群とよばれている。多くの遺跡では岩陰や洞窟内から土器や石器のほか、貝や動物の骨が多量に出土しており、当時の人々が岩陰や洞窟を生活の場として、主に狩猟採集生活を営んでいたことが明らかになっている。
▼浄福寺遺跡群
（写真提供：（財）広島県教育事業団）
弥生時代には、大陸文化の伝播とともに県内でも稲作が営まれるようになる。弥生時代前期の土器は温暖な瀬戸内海沿岸部だけでなく、現在でも積雪の多い北広島町大朝や庄原市高野町でも見つかっており、弥生時代前期の段階ですでに広範囲に弥生文化が広がっていったようすがわかる。その中でも、福山市の亀山遺跡〔県史跡〕や大宮遺跡では、集落の防御のために周囲に濠（ほり）をめぐらせた環濠集落が営まれており、弥生文化の到来とともに、争いもまた広がっていったことがわかる。
その後、県内では遺跡数が減少するが、中期後半から後期（１〜３世紀頃）になると、その数は急激に増加する。例えば、広島市の畳谷遺跡〔県史跡〕や東広島市の浄福寺遺跡群などでみられるような、竪穴住居３〜４軒をまとまりとする集落が、県内各地に多数営まれるようになる。また、このころになると、県内の北部（江の川流域）・南西部（広島湾岸・賀茂台地）・南東部（芦田川流域）などでは、弥生土器や墓などに地域色が見られるようになる。特に北部や南東部では、出雲（島根県）や吉備（岡山県）の影響を強く受けていたことがわかっている。
古墳時代（３〜７世紀頃）には、県内でも多くの古墳が造られるようになり、竪穴住居跡や掘立柱建物跡で構成される集落跡も多く発掘調査されている。古墳では、直径10ｍ程度の大きさの円墳が最も多く見られるが、前方後円墳や方墳などさまざまな形の古墳が、県内各地に造られた。次に、広島県で規模の大きな古墳ベスト３を紹介する。
▼三ツ城古墳
（写真提供：東広島市教育委員会）
第１位は、東広島市の三ツ城古墳〔史跡〕である。全長９２ｍの前方後円墳で、発掘調査の結果、墳丘は葺石（ふきいし）で覆われ、
埴輪を3段にわたって巡らせていることがわかった。古墳時代中期（5世紀）に築かれた古墳で、後の安芸国域（県西部）最大の規模
からすると、安芸国域を統括する首長の存在を示すものと言える。
第２位は、神石高原町の辰の口古墳である。全長７７ｍの前方後円墳で、古墳時代前期（４世紀後半頃）に築造されたものと推定さ
れる。この地域は、広い平野があるわけではなく、狭い谷筋が樹枝状に入り組んでいるが、吉備と出雲のほぼ中間に位置し、両地域を結
ぶ重要な場所であったことから、何らかの政治的意図のもとに大規模な古墳がつくられたものと思われる。
第３位は、福山市の二子塚古墳〔県史跡〕である。全長６８ｍの前方後円墳で、発掘調査の結果、古墳時代後期（６世紀後半から７世紀初頭頃）
の古墳で、後円部と前方部に一つずつ横穴式石室が設けられていることがわかった。後円部の横穴式石室は、県内でも有数の規模で、石室内には兵庫県で産出
される竜山石でつくった組み合わせ式石棺が置かれていた。古墳の規模や出土遺物から、備後国南部を代表する首長が築造したものと考えられている。
７世紀以降、仏教文化の浸透に伴い、県内にも多くの寺院が建立される。また、
律令国家体制の成立とともに、西半部の安芸国と、東半部の備後国が設置され、国府（諸国におかれた政庁）
や国分寺（諸国におかれた官営の寺院）が設置され、各郡には郡衙とよばれる役所が置かれた。
安芸国の国府の位置については諸説あり、遺跡の確認には至っていないが、備後国の国府は、
昭和５７年以降の継続的な発掘調査の結果、府中市の市街地の地下に遺構が残っていることが明らかになった。
東広島市にある安芸国分寺跡〔史跡〕は、昭和４４年（1969）以降の発掘調査の結果、門や金堂、
僧房などの伽藍配置のようすが明らかになった。また，須恵器や瓦など多くの遺物が出土したが、墨書土器や木簡など
の文字資料も出土している。平成１２年度の発掘調査では「天平勝宝二年」（750年）銘の木簡が出土しており、
天平１３年（741年）の国分寺造立の詔以後、これまで『続日本紀』などの文献史料ではよくわからなかった地方の
ようすを解明する手がかりが得られている。また、備後国分寺跡は、現在福山市にある国分寺を中心とする範囲と想定され、
昭和４７年から確認調査がおこなわれ、金堂跡・塔跡・講堂跡などが確認された。
中世の遺跡では、城館遺跡や集落跡が多数確認されている。中でも、山の頂上や丘陵の先端につくられる山城跡や、
その麓に構えられる館跡などが多く、県内では１５００ヶ所以上確認された。
▼吉川元春館跡
（写真提供：北広島町教育委員会）
安芸高田市にある戦国大名毛利氏の拠点の郡山城跡〔史跡〕や、三原市にある戦国大名小早川氏の拠点の高山城跡・新高山城跡〔史
跡〕、備後国の守護所であった福山市の神辺城跡など大規模な城館遺跡もあるが、県内で一番多いのは面積が1000�崢�度の小規模なもので、村や街道、
あるいは海を見渡す場所に築かれている。
現在、整備されている県内の中世遺跡では、北広島町の吉川元春館跡〔史跡〕などがあげられる。吉川元春は毛利元就の二男で、吉川
氏の養子に入り、その後小早川氏とともに毛利両川体制を担った。吉川元春館跡は、天正１１年（1583）に造成が開始された。館の規模はおよそ
１００×７０ｍで、館正面には高さ３ｍの石垣を築いている。また、館内からは、主殿となる建物のほか、庭園や台所跡、トイレ跡などが見つかった。
