戦国時代の武将。明応６年（1497）生まれ、元亀２年（1571）没。兄の興元（おきもと）、その子幸松丸（こうまつまる）の相次ぐ死により、大永３年（1523）に毛利氏の家督を相続した。 安芸国の一国人（こくじん）・国衆（くにしゅう）にすぎなかった毛利氏を、中国地方最大の戦国大名に押し上げた。
▲毛利元就画像
（安芸高田市歴史民俗博物館所蔵）
毛利氏は、鎌倉幕府草創期の官僚である大江広元（おおえのひろもと）の子息季光（すえみつ）が、相模国毛利荘（神奈川県厚木市）を領して「毛利」を名乗ったことから始まる。
大江広元は朝廷に仕えていたが、源頼朝に招かれ鎌倉に下り、頼朝の右筆（ゆうひつ、秘書官）を勤めるなど側近として重用された。
特に、守護・地頭の設置など鎌倉幕府の基礎固めに活躍した。その功績により各地に所領を有したが、安芸国吉田荘（安芸高田市）もその一つである。
南北朝時代に、季光の孫の時親（ときちか）以下４代の子孫が吉田に集結する。
以後、ここが毛利氏の本拠地となり、一族を吉田周辺に分家して勢力を拡大していった。
室町時代には、東の幕府・細川氏と西の大内氏という二大勢力の狭間で、安芸国の有力な国人としての地位を確立する。
応仁文明の乱（1467〜77）後は、出雲国において勢力を強め南下する尼子（あまご）氏が細川氏に取って代わり、安芸・備後両国の国人とともに大内・尼子両大名間抗争に巻き込まれる。
元就が毛利氏を継いだのは、まさにこのような時期であった。
なお、元就の妻（法名：妙玖〈みょうきゅう〉）は、大朝新庄（北広島町）を本拠とし山県郡東部地域を支配していた国衆吉川（きっかわ）氏の出身である。
元就の兄興元の妻は、安芸・備後・石見三国にまたがる広大な領域を支配していた高橋氏の出身で、その子供が幸松丸である。
この三氏は所領を接することから、これ以前から婚姻関係を通じて良好な関係の形成・維持に努めていたものと思われる。
こうした日常的な相互扶助・同盟関係が素地となって、後に国人一揆が形成され、その主導者である毛利元就が権力を集中して戦国大名となるのである。
大永３年（1523）に家督を相続した元就は、当初尼子氏方に属したが、同５年（1525）に大内氏方に寝返り、以後同陣営の安芸・備後両国における軍事指揮官として活動する。
享禄２年（1529）、大内軍・備後国衆和智（わち）氏・安芸国衆宍戸（ししど）氏の援軍を得て、尼子氏方となった高橋氏を滅ぼす。
これにより、高橋氏が有していた大内氏方の安芸・石見両国の国衆連合の主導者（盟主）の地位と高橋氏の所領は元就が継承することとなった。
こうして、毛利氏は安芸・備後・石見三国における国衆連合の主導者としての地位を確立し、これはその後の毛利氏の戦国大名化の基盤となった。
天文１９年（1550）までに、元就は三男の徳寿丸（後の隆景〈たかかげ〉）を、竹原（竹原市）を本拠とした国衆竹原小早川氏の家督に入れ、次いで沼田（ぬた、三原市）を本拠とした国衆沼田小早川氏の家督も相続させた。
また、妻の里である吉川氏の家督に次男の元春（もとはる）を入れることに成功した。
こうして、毛利氏出身の元春・隆景が国衆家の当主として活動するとともに、毛利氏権力の中枢に加わり軍事・政務を行う「毛利両川（もうりりょうせん）体制」が形成され、大内氏・尼子氏に次ぐ第３の勢力として台頭するのである。
天文２３年（1554）大内氏と断交して戦国大名としての自立のスタートを切ると、翌２４年に厳島（いつくしま）合戦で大内氏重臣の陶晴賢（すえはるかた）を破り、周防・長門両国を征服していき、弘治３年（1557）大内氏を滅ぼす。
永禄５年（1562）前半までにほぼ石見国を制圧した毛利氏は、７月から本格的に出雲国侵攻に取りかかる。
そして、尼子氏の本拠城である富田月山城（とだがっさんじょう、島根県安来市）を包囲して孤立させ、同９年（1566）１１月尼子氏を降服させる。
こうして、毛利氏は中国地方最大の戦国大名となったのである。
元就は謀略をめぐらせて合戦に勝利する知将として語られることが多いが、その際例示されるのは軍記物（江戸時代に書かれた歴史小説）から引用されたものである。
特に、郡山（こおりやま）合戦と厳島合戦のものが有名であるが、とても史実とはいいがたい。
そこで、ここでは確実な史料をもとに両合戦の推移を紹介する。
○ 郡山合戦
▲郡山合戦関係位置（赤･･･尼子氏方、青･･･大内氏方）
（毛利氏の本拠郡山城が、大内・尼子両大名間抗争における大内氏方の最前線になっていたことがわかる。）
天文５年（1536）３月、尼子氏は備後国地毘荘（じびのしょう、庄原市）を本拠とする国衆山内（やまのうち）氏を屈服させ、次第に芸備地域に勢力を拡大していった。
同８年（1539）になると、尼子氏方は安芸国北（きた、安芸高田市）・備後国志和地（しわち、三次市）の各城を攻略した。
吉川氏も壬生（みぶ）城を攻めて山県表（やまがたおもて、北広島町壬生・有田・今田周辺）を占拠した。
こうして、毛利氏の本拠吉田は西・北・北東を尼子氏勢力に包囲されることとなり、大内・尼子両大名間抗争の大内氏方の最前線に位置することとなった。
そこで、大内義隆（よしたか）は、翌９年（1540）正月防府（山口県防府市）へ出陣し、９月には岩国横山（同県岩国市）に到着する。
同じころ、大内氏の東西条（とうさいじょう、東広島市）代官である杉隆宣（たかのぶ）と国衆竹原小早川興景（おきかげ）は吉田の南隣の坂（さか、安芸高田市）まで来援・在陣した。
一方、尼子詮久（あきひさ、後の晴久〈はるひさ〉）は石見国を経て９月４日に安芸国多治比風越山（たじひかざこしやま、安芸高田市）に着陣する。
山県表・北を中心とする地域が尼子氏勢力下であり、安全かつスムーズに進軍できたからである。こうしていわゆる郡山合戦が始まるのである。
合戦は、�〔嗟�氏による尼子勢の迎撃戦→��尼子氏の連絡補給路を断つ後方攪乱戦→�Ｂ臚盪畚顛弾�隆房（後の晴賢）来援後の尼子陣への正面攻撃、と推移し、同１０年（1541）正月尼子軍の退却により大内氏方の勝利に終わった。
決して毛利軍だけで尼子軍を打ち破ったのではなく、大名大内氏や竹原小早川氏ら安芸国衆の援軍があってこその勝利であった。
また、いわゆる籠城戦とは異なり、しばしば城外に進撃し、戦闘は城下や周辺の通路で展開されていた。
軍勢数も誇張があり、あてにならない。
なお、このときの郡山城は、郡山の南東支尾根に位置していた。
「旧本城」（きゅうほんじょう）と呼ばれる部分である。
天文１５年（1546）元就は毛利氏の家督を長男の隆元（たかもと）に譲る。
隠居地を郡山山頂（「かさ・嵩・嶝」）に求めたことから、郡山の全山城郭化が始まる。
隆元は家督相続直後は当主の居場所である「本城」にいたが、後に元就との協議を密にするため「尾崎」に移っている。
○ 郡山合戦
▼宮之城と厳島神社大鳥居
天文２３年（1554）５月、元就は大内氏方を離れて自立し、広島湾頭の己斐（こい）・草津（広島市西区）・桜尾（さくらお、廿日市市）の大内氏方の各城を接収（せっしゅう）し、厳島（同市）を占領する。
厳島は瀬戸内海交通の要衝であり、かつ安芸国一宮（いちのみや）の厳島神社があるように、軍事・経済・政治上極めて重要な位置を占めていた。
元就は、この厳島防衛の拠点であった「宮之城（みやのしろ）」「宮要害（みやようがい）」を改修し、城番を入れていた。この城は決して「囮（おとり）の城」ではなかったのである。
大内氏では、同２０年（1551）に陶隆房を首謀者とするクーデターにより義隆が自殺し、義隆の姉が嫁（とつ）いでいた豊後国の大名大友義鑑（よしあき）の次男義長（後の晴英〈はるひで〉）を家督に迎えていた。
毛利氏の敵対時、大内軍は石見国津和野を本拠とする国衆吉見（よしみ）氏を攻撃中であったが、直ちに反撃に出た。
同２３年（1554）６月、陸路明石（あかし、廿日市市）に急行した陶晴賢の家臣宮川甲斐守（みやがわかいのかみ）は毛利軍と戦い、討ち死にしている（いわゆる明石口〈あかしぐち〉の合戦＝折敷畑〈おしきばた〉の合戦）。同じく大内氏の水軍は１００艘の船団を組み、厳島を直撃するが、「宮之城」により上陸を阻止されている。
大内軍による厳島攻撃は断続的に行われ、上陸を許したり「在浦」（ありのうら）が焼き払われるなどの被害はあったが、毛利軍が厳島を死守した。
翌２４年（1555）９月２１日に陶晴賢は厳島に上陸し、「宮之城」の尾頸（おくび、尾根続き側の首のように細くなった部分）の堀を埋めるなどして城を攻撃した。
しかし、毛利水軍と小早川水軍とで大内氏の援軍の渡海をくい止めるとともに、２８日には伊予国の来島村上（くるしまむらかみ）氏の２００〜３００艘が来援し海上を完全に封鎖した。
翌２９日に元就は厳島に上陸し、陶陣を来島村上氏や他の国衆とともに急襲し、陶晴賢をはじめとして大内軍を撃破した。
元就の知略とは、ウソの情報を敵方のスパイに流したり、囮の城を築いたりといった、いわば小手先の謀略ではなく、的確な情報分析とその対処能力、そしてそれをより効果的に行う人材登用であった。 例示した郡山合戦と厳島合戦の推移はその戦略眼の高さを物語っている。 また、毛利両川体制の形成や「御四人」制・五人奉行制などの行政システムの整備も直面する諸課題に対応したものである。 近江出身の猿楽師鵜飼元辰（うがいもとたつ）や大内氏旧臣大庭賢兼（おおばかたかね）らを奉行人に登用したことに象徴されるように、有能な人材を幅広く求め登用したことは、元就の知略の一端を示すものである。
