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田尻のアンズ(たじりのあんず)

 300年もの昔から絶えることなく作られてきた田尻のアンズ。沼隈半島の南端、瀬戸内海国立公園鞆(とも)の浦を望む田尻(現福山市田尻町)はアンズのふるさと。温暖な気候に恵まれ、豊かな人情に育てられた特産である。
 大正元年(1912)広島県農試のまとめた『芸備の園芸』には、こう紹介されている。「沼隈郡田尻村には、戸毎其宅地内及空地に数本の杏を有せざるなく、年々其産する果実を売却して、宅地租及諸雑費を補ひて尚余りあり。花時(四月上旬神武天皇祭の頃を盛とす)同村を過ぐれば恰も白雲靉靆として模糊の裡にあるが如し」と。
 当時の記録によると、「村内に約八百本、産額壱萬二千貫、価格壱千八百円」と出ている。
 田尻では、「アンズは畑の中に植えると枯れる」といわれ、畑のあぜに植えた。したがって果樹園は形成されず、散在する放任型の栽培だった。それにしても200戸ほどで2,000本近く植えられていたのだから、花見時にはにぎわったことが想像される。
 昭和54年(1979)「田尻杏の古里振興会」が発足、町民の手によって、田尻アンズの復活がはかられている。氏神社の境内に「田尻杏入植三百年記念碑」を建てたり、「田尻杏小唄」、謡曲「田尻の杏」なども作られている。
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