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熊野神社の老杉群
(くまのじんじゃのろうすぎぐん)
鉾杉(ほこすぎ)という言葉があるが、それにより神社の所在はどこからでもすぐ知れる。こんもりとした豊かな緑の広がりのなかに、真っすぐ天を衝くように伸びた幾本かのスギが、その社叢(しゃそう)を示しているからで、そのような先端のとがった樹木を、古代人は神聖視した。そこに神が降臨(こうりん)すると信じた神籬(ひもろぎ)信仰による。そのスギの油脂が、酒屋の軒先に吊るされた「酒林(さかばやし)」(杉玉)が語るように、神に供える酒に防腐作用をおよぼすことからも、スギは神秘的な樹木、霊木として信仰されるようになったと考えられる。
そのようにスギは神木、霊木として人々に信仰され、神社境内の景観はスギでかたちづくられることが多いが、この熊野神社の社叢には、他に例を見ないほどのスギの巨樹群が立ち並んでいる。その「欝蒼(うっそう)」 という言葉そのもののような森には、胸高幹囲が8メートルを超える老杉をはじめ、5メートル余の巨樹11本が天に向かってそびえ、社叢を静寂と神秘と神々しさに彩っている。そのような斎庭を想わせる神秘的な雰囲気に由来するのか、かつて、南北朝時代には能野修験者の聖地として、また、江戸時代末期には、『古事記』にいう比婆山の遙拝(ようはい)所として人々の信仰をあつめてきた。
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