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霧の海(きりのうみ)

 三次盆地は、秋から浅春にかけて幻想的な霧の海に覆われる。盆地をうねる3つの川が、夜をかけて音もなくはきだす白い息。果てもなくわき立つ濃い霧が、視野を抑えて街も人も、スリリングに包み込んでゆく。
 霧の海は、観光三次をアピールする代名詞。盆地の西にひかえる高谷山は、美しい霧の海を見晴らす絶好の展望台である。山路をうねってたどりつく頂上からは、純白の衣装をまとった霧の舞台が、眼下にのぞまれる。
 朝日が夜のとばりを引き上げて光の束を延ばすにつれ、霧は白から優しい黄金色へと表情を変えながら夢幻の演技を繰り広げる。見る人がしばし陶然する瞬間だ。
 その華やかな舞台裏、霧の海底では、夜明けをせつなく妨げられる。しつこい霧が晴れるのは10時から11時ごろ。
 盆地の霧は、三次の風土、人の気質や感性に影響してきたといわれる。旧制三次中学に学んだ歌人中村憲吉も、歌集『しがらみ』に霧と人の心のたゆたいを詠んだ歌を多く収めている。
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