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田中写真館(たなかしゃしんかん)

 昭和2年(1927)に建てられてからほとんど修理もしないまま現在に至っているという、地下室付き木造3階建て、モルタル塗り、陸屋根構造という洋風建築である。ただ洋風とはいっても、明治建築ともいうべき復興式とか、それのデザイン上の意匠とか、あるいはそのような意匠心でデザインされた建物というわけではなく、額縁をもった窓、石造の柱に似せた柱型や伏せ梁、レンガ壁を左官塗りに仕上げた壁にならった平らな壁面、コンクリート陸屋根にならった屋根に廻らすパラペット構造など、むしろ西欧建築の部分を混ぜて西洋建築と思って造られた当時のモダン建築といえよう。しかし玄関の独立柱の柱頭はアイオニックオーダーまがい、ベースはローマン風であり、それの上の玄関庇(ひさし)は起(むく)りのついた急勾配屋根を持つ切妻で、破風尻は渦巻様になり、しかも壁面には一種異様な、むしろ東洋風ともいうべき2連の窓が付いている。これは特種な技術的仕上げや雑作の奇をねらったもので、デザインとしては取り上げられない建物ではあるが、当時は珍しがられて、見物に弁当持ちで来る程であったという。ただ1つ大切なことは、木造であってもこのような塗壁仕上げなどをして60年たった今もほとんど修理していないということは、この建物を造られた大工、左官、屋根の防水工、建具や雑作大工などの全ての職人さん達の腕がいかに良く、しかもいかに入念に仕事をされたかを示す資料といえよう。これはまた人の義を語る資料ともいえる。
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