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上津田稲生神社社殿
(かみつたいなりじんじゃしゃでん)
火の祭典という言葉があるが、稲生神社の神事「神殿入(こうどな)り」は正にそれである。10月の初旬に執り行われるこの祭りは、社をこの地に勧請した折の、人々の歓びの表現に由来するとも伝え、すべてが闇に沈んだ頃、氏子の人々が豊作を感謝して、神霊の移御する大灯明を神社へ奉還する時、祭りは最高潮に達する。笛や太鼓の音にのせられ、漆黒の闇の中各所に七灯・舟後光などの大灯明が浮かび、移動して来る様は奇観である。
その大灯明が奉還される稲生神社は、大永年間(1521〜28)の勧請と伝えるが、現在の建物は棟札などから正徳5年(1715)の再建と考えられている。しかし、一部には旧本殿の古材を再用していると思われる一面、内部に丸柱2本を用いて設けられている内陣は、建物本体との接合状態から、やや時代が下るかと思われる。向拝頭貫鼻は龍の丸彫り、手挟は菊と牡丹の透かし彫り、母屋正面入側柱の木鼻は唐獅子の丸彫りにするなど、装飾性豊かではあるが、組物などに地方色が色濃く出ており、この地域の神社建築をさぐるうえで貴重な建物である。
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