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実験都市(じっけんとし)

 地元新聞の学芸部記者、梶が当時、広島の中のアメリカ租界といわれていた比治山のABCCを訪れる。そこで働く日本人職員の首切り反対のストライキを取材するためである。
 梶は応対に出た女性、二世の連絡渉外部長、ストライキの発起者である医師、この三者の言動を通してABCCの実態に迫ろうとする。
 「眼窩ふかく、疼きが再生されて襲いかかってくるような、不吉な予感。梶は僅かばかり、いら、いら、した。やり切れなさが肩のあたりに集中されている。なぜ、いらいらしなければならないのだ。なぜ、重いのだ。なぜ?」
 終章の数行である。
 昭和20年代の後半、ここを訪れた被爆者は「ABCCは診察すれど、治療せず」と自らの体験をヒソヒソ話で人から人へと伝えた。おおっぴらに言えぬ得体の知れぬ圧力が存在していた。
 それだけに「実験都市」はタブーの内側をえぐるルポ、小説に名を借りた、ABCC報告書として読者に鮮烈な印象を与えた。
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