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夏の刻印(なつのこくいん)

 しあわせになってはいけない、あいつらがしたくともできなかったことをしてはいけない、笑ってはいけない、苦しく生きなければならない、寒々と生きなければならない――。
 そうした多くの“禁止と当為”とを抱きしめて生き、そして死んだ一人の被爆者を、中学時代の友人、つまり“作者の目”が追う。小久保均の昭和52年(1977)上期芥川賞候補作。
 その死者は、中学生として兵器廠に勤労動員されていて被爆、“火のトンネル”をくぐった。その日、誰かきわめて親しい人を見殺しにして自分だけ命拾いしたのではないか――と“作者の目”は想像したりするが、ついに判然としない。そして「倶会一処」と彫られた墓石の文字が、この友人には最もふさわしいものと思うのである。
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