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川よ とわに美しく(かわよ とわにうつくしく)

 水底の焼木一本 
 それゆえ 私の子は
 夜毎 
 ぶらんこを夢みるだろうか

 詩集「川よ とわに美しく」の一節である。川はいうまでもなく広島の三角州を貫く太田川を指す。この詩は「川は敗れなかった 川は崩れなかった」で起こされ「川は焼けなかった 川は失われなかった」で結ばれる。
 作者は原爆で2歳の愛児哲郎を奪われる。遺骸は今もって不明である。水底に横たわる一本の焼木に、わが子のためのぶらんこを夢みる父親の優しい哀しみが、行間ににじみ出る。そして理不尽にも子を奪われた父親の悔しさが隠されている。
 作者は戦前、詩誌「椎の木」に所属する気鋭の詩人であった。その周辺には三好達治、北川冬彦、西脇順三郎らがいた。日中戦争が激しくなると作者は突然、筆を折った。そして原爆、敗戦。再び詩作の環境が整ったと感じたとき、愛児の死があった。ヒロシマの廃墟があった。作者の嘆きは、一度感性というフィルターを通して語られるが、奥は深い。
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