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青銅(せいどう)

 天耕(てんかう)の峯に達して峯を越す
 山口誓子句集「青銅」の1句。「広島行」と題する1連16句の中にあり、昭和37年(1962)の作。「倉橋島」の詞書があるので、その対岸、今の音戸公園辺りから島の段々畑を遠望しての感慨か。
 誓子は後に「自選自解」の中で、「天耕」は造語で「耕して天に至る」をつめたものと語り「倉橋島を裾からてっぺんまで見上げると、すっかり耕されている。それどころか、峯を越して裏側にもおよんでいる。そのような天耕ぶりに私は感動した」と述べている。
 誓子はまた同じとき、江田島にも行き、
 雪降るな人間魚雷みなぼろぼろ
 寒夜の火みな造船のことに関す
 寒き夜や鎮守府以来この暗さ
の3句を残し、原爆ドームの前に立って
 瞬間に彎曲の鉄寒曝し(ざらし)
と詠んだ。いずれも感情を洗い流した“写生構成”の韻律が人の心を刺す。
 「天耕・・・」の句はいま、音戸公園の一角に、門下の橋本多佳子が呉で詠んだ。
 寒港を見るや軍港下敷に
とともに“師弟句碑”となって建っている。
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