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荷車の歌(にぐるまのうた)

 出雲街道は、三次から布野宿を経て赤穴に至り、山陰地方へと抜ける。下布野からだらだら坂が始まり、上布野あたりからはその傾斜が目にみえてくる。その坂を右左に曲がりながら登っていると、人生を道に例える言葉がふとうかんでくる。
 荷車の歌は、この坂道を舞台にしたある女性の物語である。ふろしき包み一つを背負って、十六歳で茂市さんの所へ嫁に来たセキさんは、キースキース、コロコロと音をたてる荷車を引きながら、赤穴から三次へ木炭を運んでいた。夜中の12時に起きて支度をし、布野には夜の明け切らぬ内に着き、三次の町に11時すぎに入っても、家に帰り着くのはいつも午後の9時すぎになるという生活であった。
 作者が「あきらめにも見える暮らしの底に、一途な情熱や努力の埋もれている生活がある」と述べているように、この「荷車の歌」は、一途に生涯を生きようとする女性の姿を、農村社会の変遷をからめながら、とつとつとそして力強く描いた作品である。
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