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よじろうの灯
(よじろうのあかり)
「私は備後路の、三次盆地に続く山里の僧院に住んでいる。・・・・・・この地方の四季の変化は、はっきりとしている。冬から雪解の浅春へ、春から新緑の初夏へ、その移り変りは面白い。
わけても晩秋から初冬へかけた今日この頃、この盆地一帯は濃い霧が立ちこめる。天気の良い朝は、濃霧が潮のようにサーッと流れて肌寒い。やがてそれも徐々にまい上ると、黄い紅に色どられた山々が、秋陽にカーッと、目ざめるように美しく映える。そして夜は又人影も見えぬほど濃い霧。それが音もなく立ちこめて、やがてこの小さな山里は、ぼっとりと夜霧の底に沈んでしもう。人々はひっそりと幻想の世界に歩み出すのである」
随筆集「よじろうの灯」の中の一文である。三次盆地の霧の情景をこれほど的確に、幻想的に美しく表現したものはほかに見られないほど確かな描写、筆力をもっている。
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