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寒雲(かんうん)

 赤名越えて布野のはざまに藤なみのながき心をとどめむとする
 斎藤茂吉歌集「寒雲」の中の1首。昭和14年(1939)作。「布野」と題する1連10首には、次のような歌もある。
 こまごまと君の遣ししもの見れば眼鏡おぼろにわれは悲しえ
 かぎりなき木(こ)の芽もえつつ春ふけしひとつの山にのぼりてくだる
 この“君”は友人、中村憲吉。早く昭和9年(1934)に没したが、その縁で茂吉は前後6回この村を訪ね、そのうち5回は山陰旅行の往還に赤名峠を越えている。名著「柿本人麿」の現地踏査のためで、中でも人麿の辞世の歌のある「鴨山」に執着し、石見・湯抱温泉の鴨山をそれと見定めるまで、何度となく足を運んだ。歌集「寒雲」にはその足跡を物語る連作が2ヵ所あり、いずれも布野と赤名峠を歌に詠み込んでいる。
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