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帝釋峽記
(たいしゃくきょうき)
「帝釋村は全村ことごとく石灰岩から成っている。いたるところの杉の木立に潺湲(せんかん)の音がし暗灰色の奇岩がある。岩をくりぬいて、流れは縦横に帝釋村の下を走りまはり、思ひ設けぬところに潺湲の姿を見せ、たちまち地中に没しました意外のところに清澄なる流れをあらはす。岩の下をのぞきこむと水のためにけづりとられたやうに水面とすれすれに岩の底が見え、銀色の縞模様が光り奥知れぬところから滾滾と水が流れ来ているのだが、旅人にはその水がどこから出てどちらに流れて行くのだか見当もつかぬ。水はすんで清くついついと流れを切る鮎の姿が見える。普通探勝の順路としては帝釋寺から入るのがわかりよく、寺の背後に百七十尺といふ巖壁がまず旅人の眼をうばふ」
昭和13年(1938)刊行の「糞尿譚」の中に収録されている「帝釋峽記」の一節である。帝釋寺(永明寺)、鐘乳洞、雄橋(おんばし)・雌橋(めんばし)などをさわやかな筆致で表現する。そして壮大な自然美を「まことに恐ろしくも寒き風貌である」と讃える。
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