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歌集 虚假(かしゅう こけ)

 冬空の行きかふ雲の痛きまで汝れをぞ思ふわれちちなれば
 いかるがのみ寺まかれば雨はるる雲の間に間に雲雀鳴きかふ
 電柱は立ちながら燃ゆ枕木は煙りをはなつわが行く道に
 待つこころ永遠に失せにし床の間に咲きて寂けき(しずけき)いちはつの花
 のがるなきあはれ一つの身を生きて屍のまちをさまよふばかり
 原爆に生きて十年足のべて据うるやいとはやっぱり熱し
 耳ふかく鳴りて消えざる雑念をわがものとして年たちにけり
 
 昭和20年(1945)から31年(1956)までの12年間の作品を集めた歌集。「旅を愛し、人世を詠んだもの、殊にこの歌集に於ては戦後の私を詠んだものが多く、永遠なる我の正法である」と後記している。
 作者は、この歌集の前に「遍路」<昭和6年(1931)刊>を出しているが、「私は決して所謂(いわゆる)歌人ではない」と言い切っている。「真実を求めて歩く、一笠一簑に興ずる」歌人だった。
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