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天彦(あまひこ)

 舳(へ)を並めて木の江の沖に夜を待ちぬ筑紫路の船熊野路の船
 吉井勇歌集「天彦」の「寄旅三昧(きりょざんまい)」と題する旅行詠の中の一首。
 操船(たで)七日名残を惜しむ船がかり船びとならばわれもせましを
 夕茜木之江の空の褪するころちよろの船出のラッパ聴こゆる
と一連を成し、大崎上島・木江港での作。
 吉井勇は、明治のころ叙情派歌人としてはなばなしい出発をしたが、昭和に入ってからの時代の暗雲の中で、旅浪の思いにはせられ、瀬戸内の島々や九州・四国などを転々とし、晩年は京都洛北に隠棲した。この「羇旅三昧」には「昭和11年4月より数月の間、四国、瀬戸内海、中国、筑紫路などに歌行脚(あんぎゃ)を試みたるが・・・・・・」という詞書(ことばがき)がある。
 木江では港近くの松本旅館にわずか3、4日の滞在だったが、“潮待ち港”としての船の出入りや“おちょろ舟”といわれた客引きの女性たちの舟の姿などに、深い旅情を覚えたのであろう。今はもうその昔の姿はない。
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