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三川ダムの湖底
(みかわだむのこてい)
「私は今、三川ダムの湖底に沈んでいる久恵に生れ、19歳までそこに育ちました」ではじまるふるさと回想記は、76歳の時、葛原しげる編集の「備南文集わが郷土」<昭和34年(1959)刊>に寄せられたものである。
「沢山の東京人が、故郷をもつ人は幸福だと異句同音に言われますが、本当にその通りだと信じます。私も毎年幾回か故郷に参りますが、この8月も墓参の為に帰りました。幸いに私の生家は、新しい三川ダムの近くに移築されておりますので、なつかしい家に泊って、満々と水をたたえた湖面からの涼風を満喫しました。あの広い三川湖が新しく生れて、附近の景色は一変したかのように見えましたが、附近の山々は、昔ながらの姿そのままで、8月2日の土用さ中だというのに鶯が鳴いていました。
土用に来て鶯のこえきく三川ダム
何ともいえない懐しさで、帰って来たという感じで一杯でした」
淡々とした語り口で、故山への限りない思慕の情を伝えている。
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