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鞆の鯛網(とものたいあみ)

 エットー、エットー、ヨーイヤサンジャー・・・。法被(はっぴ)に腰みの姿の日焼けした漁師さんが、大漁節に合わせて網を絞る。体長30センチのマダイが約200匹、ピンク色の体を光らせ跳びはねる。「うわぁ、大きい。」観光客から思わず歓声が上がる−。福山市鞆の浦を舞台に、毎年5月に繰り広げられる伝統の海上絵巻「観光鯛網」のクライマックスである。
鯛網漁は370年前に村上水軍の頭領、村上太郎兵衛義光が考案した「しぼり網」を再現した漁法である。仙酔島の田の浦海岸で、樽太鼓が打ち鳴らされ、弁天乙姫の舞が披露されると、いよいよ出漁。指揮船1隻、網を積んだ親船2隻、漁場で親船を操作し固定する錨(いかり)船2隻、獲れたタイを運ぶ生船の6隻で構成する船団が、大漁旗をなびかせて沖合の漁場へ向かう。船団の後に大、小十数隻の観覧船が続く。
先行した指揮船から、手旗で合図が出ると網入れだ。潮流の下手から2隻の親船が左右に分かれ、長さ1500メートル、幅100メートルもある網を円を描くように下していく。「ヨーイショ、ヨイショ」。掛け声に合わせ漁師たちが威勢よく網を引き上げ、親船同士がくっつき合うまでに狭まると、大漁のタイがピチピチ踊る。
「さあ、買った、買った」。漁師さんが跳びはねるタイをすくい上げてくれる。
昔ながらの伝統漁法を満喫した後の帰路も、心地よい潮風を受け、宮城道雄の「春の海」の舞台である鞆の浦ののどかな風景が楽しめる。
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